|23| フォント2・文字幅の種類

|23| フォント2・文字幅の種類

今回は主に日本語フォントでの文字幅の種類について考えてみます。
Windowsの世界では平仮名、片仮名、( )などの記号の文字幅が狭くなっているものをプロポーショナルフォントと呼びます。普段からWindowsを使っている人たちには当たり前の話なのですが、これはWindows特有のフォントです。MacにはMicrosoft365をインストールしない限り、ありません。
出版界やデザイン界でも同様です。

プロポーショナルフォント

アルファベットの文字は多くの場合、「i」の文字幅は狭く、「M」は広いのが普通です。これをプロポーショナルフォントと言います。数字は原則として同じ文字幅になります。これは複数行を持つ表の中に数字を並べたときに縦方向の桁を揃える必要があるからです。まれに文字幅が異なる数字を持つデザインの文字もあります。

プロの世界で使われる日本語の文字は正方形の中に字形がデザインされていて、漢字も仮名も記号も同じ幅を持っています。アルファベットと数字は日本語モードのいわゆる全角と英数モードの2種類の文字があり、英数モードのアルファベットはプロポーショナルな文字幅になっています。
しかし、Windowsにインストールされる日本語フォントは事情が違います。

日本語の仮想ボディ(文字幅)

日本語の文字は原則として正方形の中にデザインされています。この正方形のことを仮想ボディと呼びます。字形は仮想ボディ一杯にデザインされているわけではなく少し小さめに収められています。12ptの文字とはこの仮想ボディの大きさが12×12ptになります。通常、文字と文字の間隔は開けずに配置されますので、仮想ボディより少し小さめの字形の余白が視覚的な文字と文字の間隔になるわけです。

明朝体とかゴシック体と呼ばれる字形の違いもフォントの特徴の一つですが、仮想ボディの中でどれぐらいの大きさにデザインされているかということもフォントの特徴になります。

上段は游明朝、下段はAdobeが出している小塚明朝です。両方を比べると游明朝が柔らかな感じがあるのに対して、小塚明朝は堂々とした感じです。平仮名で比べると一目瞭然で、游明朝の方が小さめで漢字との並びでリズムを感じます。文学などの読み物に向いたフォントです。

文字幅の違い

Windowsにインストールされているフォントには仮想ボディの幅に幾つかのタイプがあります。仮想ボディの幅を単に文字幅と書くことにします。
この記事内では英数モードで入力した時のアルファベットのことをアルファベットと書いています。またスタンダードフォントという名前はないのですが、プロポーショナルフォントが本来とは異なる意味合いで使われているので普通のフォントという意味で使います。

Windowsで使われているフォントを文字幅で分類すると4種類になります。

文字幅による種類

●スタンダードフォント
アルファベットはプロポーショナル。それ以外、漢字、ひらがな、カタカナ、日本語の記号類など全て正方形の仮想ボディで同じ文字幅になります。

●英数半角等幅フォント(呼び名はなし)
アルファベットと数字は漢字の半分の幅で同じ文字幅。半分の幅なので半角。それ以外は全て正方形の仮想ボディで同じ文字幅。
英数が半角なのは日本語1文字の幅に2文字入るので非力なマシンでもコントロールしやすかったのでしょう。昔のワープロ専用機、初期のパソコンの名残だと思っています。今でも「半角英数」とか「半角」という言葉が残っています。

●仮名プロポーショナルフォント(Windowsでの通称プロポーショナル、Pフォント)
日本語の仮名、「」などの記号とアルファベットがプロポーショナル。漢字は正方形の仮想ボディで同じ文字幅。個人的には句読点まで文字幅が狭く、1行に多くの文字を詰め込むためのフォントという印象が強いのですが、プロでない人には便利なフォントです。
フォントによっては左右の空きバランスが悪いこともあります。

●UIフォント
日本語仮名の字形が異なり縦長、「」などの記号とアルファベットがプロポーショナル。漢字は正方形の仮想ボディで同じ文字幅。
コンピュータのメニューやダイアログ内で使うためのフォント。仮名プロポーショナルよりさらに狭い範囲に文字を詰め込むためのフォント。通常は使いませんし、使うことはお勧めしません。

同じ名前であれば文字幅が異なるフォントでも漢字は全て同じです。
Meiryo UIはメイリオ、MS UI GothicはMS ゴシック、Yu Gothic UIはそれぞれの太さに対応する游ゴシックがベースになっています。

同じデザインのフォントで文字幅のタイプが異なるわけですが、全てのフォントに4種類が含まれているわけではありません。

游明朝にはスタンダードフォントしかありません。

メイリオ、游ゴシックはスタンダードフォントとUIフォントの2種類。

MS明朝にはスタンダードフォントがなく、英数半角等幅フォントと仮名プロポーショナルフォントの2種類。

MSゴシックにはスタンダードフォントがなく、英数半角等幅フォント、仮名プロポーショナルフォント、UIフォントの3種類。

HG系はHGS、HGP、HGとついているフォントは順番にスタンダードフォント、仮名プロポーショナルフォント、英数半角等幅フォントの3種類。

という具合にバラバラです。

仮想ボディ幅と字形の幅

MS ゴシックの仮名とMS Pゴシックの仮名を比べてみると仮想ボディの幅が狭くなっているのが分かります。しかし字形そのものは全く同じです。仮名プロポーショナルの仮名は左右の余白部分を削ぎ落として文字間隔を詰めたものだと分かります。

一方、UIフォントの場合は仮想ボディ幅がさらに狭くなり、字形そのものも幅が狭くなるようデザインし直されています。UIフォントはコンピュータのメニューやダイアログに表示するのが目的のフォントで狭い範囲により多くの文字を詰め込むように工夫されたものです。間隔が狭いために読みにくく、弱々しさを感じます。ポスターやレポートなど普通の用途には向きません。スマホやタブレットが普及している現代では時代を感じさせるフォントです。

MS ゴシックは漢字と仮名は同じ幅なので72ptの文字の文字幅は全て72ptになります。

MS Pゴシックでは「し」の文字幅が約76%、55pt、「い」の文字幅が約94%、68ptになっています。

MS UI Gothicでは「し」の文字幅が約72%、52pt、「い」が約82%、59pt、字形の幅はそれぞれ87%、86%程度でした。

ただし、これは段落が左揃えの場合で、両端揃えでは全体の文字間隔が変化します。

英数半角等幅のアルファベット

上段がMS 明朝、下段がMS P明朝です。iとiの間にスペースを入れているわけではありません。英数半角等幅フォントのアルファベットがどれほど読みにくく、かっこ悪いものか考え直してもらいたいものです。
英文では英数半角等幅フォントを使ってはいけません。

名前の付け方

MS明朝、MSゴシック、HG系フォントはかなり古くからありました。UIフォントを除いて、このように文字幅が異なるフォントは近年インストールされるようになったメイリオ、游明朝、游ゴシックではありません。仮名プロポーショナルフォントがないのはユーザーにとって少し不便ですが、英数半角等幅フォントはあまりにも時代遅れだと感じていたのでWindowsもスタンダードな世界に変わりつつあるのかと思っていました。

しかし、もっと最近インストールされるようになったUDデジタル教科書体は3種類、BIZ UD明朝系、BIZ UDゴシック系は仮名プロポーショナルフォントと英数半角等幅フォントの2種類になってしまいました。果たして教科書体に英数半角等幅フォントが必要なのか、未だにビジネスの世界は英数半角等幅フォントを使っているのかと時代錯誤的なフォントの考え方にガックリきてしまいます。

この4種類のうちUIフォントだけは名前の付け方がはっきりしています。フォント名はアルファベットで表示され、「UI」という文字が付きます。

古くからあるMS明朝、MSゴシックでは仮名プロポーショナルフォントに「P」がつき、英数半角等幅フォントには何もつきません。HG系のフォントも「PRO」とつかないものは同様で、スタンダードフォントには「S」が付きます。「PRO」はスタンダードフォントです。これはこれで慣れるとわかりやすいです。

UDデジタル教科書体は「NP」がスタンダード、「NK」が仮名プロポーショナル、「N」が英数半角等幅となってしまいました。
さらに一番新しいBIZ UD明朝系、BIZ UDゴシック系は「P」が仮名プロポーショナル、何もつかないのが英数半角等幅、初期の名前の付け方に戻っています。
リストに表示される字形だけでは区別がつきづらいのでわかりやすい名前の付け方にして欲しいものです。

フォントプレビュー

これはMS UI Gothicフォントのプレビューを開いたところです。が、表示されているフォントはMS ゴシックになっています。

MS ゴシック、MS P ゴシックとMS UI Gothicは漢字部分が共通で仮名と英数が異なっているだけなので、プレビューウインドウの左上に「MS ゴシック & MS UI Gothic & MS P ゴシック(True Type)」と表記されています。
このフォントプレビューは漢字が共通するグループの中で代表的なフォントを使って表示される仕組みで、実際のフォントではないのです。

前回のフォントプレビューの項目でも書きましたが、役に立たない仕組みです。

Wordで入力した文字列に3種類のフォントを設定しました。
上段がMS ゴシック、中段がMS P ゴシック、下段がMS UI Gothicで、漢字は全て共通です。MS UI GothicのプレビューではMS ゴシックが表示されているのが分かります。本来なら下段のフォントでプレビューされるべきでしょう。

カーニング

デザインの世界では文字の字送りを自由に変えていきます。それは文字幅の仕様ではなく、フォントを使うソフトの役目だと考えられています。

アルファベットのカーニング

アルファベットには規定の文字幅以外にカーニング情報と言って、隣り合う文字に応じて字送りを調整するデータが組み込まれているものが多くあります。ソフトはそのデータを利用して文字間隔を調整します。日本語のフォントの中にはカーニング情報を持つものがありますが、Windowsにインストールされるフォントのほとんどが持っていません。プロのデザイナーはIllustratorのようなソフトを使ってカーニング情報に基づいて調整し、デザインによってはさらに文字間隔を手動で調整しているのです。

このカーニング情報はWordでもアルファベットのフォントで利用できますし、一部の日本語フォントではアルファベットの文字に限って利用できます。

ホームタブでフォントのダイアログボックスを開くと「カーニング を行う」にチェックが入っています。既定の設定です。このチェックを外すとアルファベットがカーニング されなくなります。

文字幅を狭くしただけでは文字幅が固定され、文字の組み合わせによっては視覚的に文字間隔が広く見えたり、狭く見えてしまうので、文字の組み合わせごとに情報を持つものがカーニング情報です。ペアカーニングと呼ばれます。

Century(センチュリー)というフォントの例ですが、上段、下段ともにカーニングがONの状態です。Yの次がTの場合とAの場合ではYの字送りが異なり、Tの次がWの場合とAの次がWの場合でも字送りが異なります。YとA、AとWの間隔は文字が重なっていることが分かります。

Wordで入力した日本語フォントで、上段はカーニングをオフにしてあります。Yの右端とAの左端、Lの右端とYの左端の位置を注意深く見てください。

メイリオ、游ゴシック、游明朝など新しいフォントはアルファベットにカーニング情報があるようでカーニングされます。游明朝の場合はLightだけに設定されているようです。明朝体ということもあり、レギュラーやデミボールドではそれほどバランスが崩れないという判断だと思います。

MSPゴシックなど古いフォントにはカーニング情報はありません。
新しいフォントでもUDデジタル教科書体NK、BIZ UDPゴシックにもカーニング情報はないようです。

仮名のカーニング

游ゴシックと游明朝は、さすがにプロ用をベースにしたフォントだけあって仮名文字にもカーニング情報が設定されています。Wordのカーニングは対象となる文字がアルファベットに限られますが、Illustratorではその情報が活かされます。

Illustratorでの例です。文字列には意味はなく、字形幅の狭い文字と広い文字の組み合わせです。

上段はカーニングをオフ。中段はIllustratorが文字幅と字形の幅から割り出してカーニングしたもので漢字もカーニングされています。オプティカルという設定です。少し、息苦しさというかバランスが悪くなっていて、Windowsの仮名プロポーショナルフォントのような雰囲気があります。下段はフォントデザイナーが設定したカーニング情報に基づいてIllustratorが調整したものでメトリクスまたはAutoという設定です。漢字はカーニングされておらず、パランス良く配置されています。プロのデザイナー達はさらに一文字一文字調整を加えることもしばしばです。

Windowsの仮名プロポーショナルフォントと違うのは、カーニング情報によって「」などの記号や句読点の文字幅が狭くなることはほとんどないということです。1行の中に多くの文字を詰め込むのが目的ではなくバランスよく文字を配置し、文字列を追いかける目線の動きをスムーズにしたり、一瞬で言葉の内容を伝えることがカーニングの目的です。

余談になりますが、私が使っているIllustratorは一部に日本語化されていない項目があり、「Metrics-Roman Only」という選択項目がありました。これは「和文等幅」のことです。「Auto」が「メトリクス」のことになります。少し、紛らわしい。

アフファベットにはカーニング情報があったメイリオですが、仮名にはありません。そもそもメイリオは仮名も漢字に近い字形幅を持つフォントで文字列が横一線に流れるような現代的な雰囲気を持っているので、カーニングする必要がありません。中段のオプティカルでカーニングされているものはバラバラ感があります。

游ゴシックから派生して作られたYu Gothic UIフォントは字形を狭くデザインし直して文字幅を狭くした時にカーニング情報をそのまま残してしまったのでしょうか、メトリクスで文字と文字が重なってしまいました。ちょっと荒っぽい作りのフォントです。

仮名カーニング・Word、PowerPoint

残念ながら、Wordでは仮名文字のカーニング情報は活かされません。上段がカーニングOFFで、下段がONです。これはプロ用のグラフィックソフトとワードプロセッサーの違いで仕方ありませんし、そこまで望むこともできません。

しかし、膨大な手間暇をかければWordやPowerPointでも文字間隔の設定で一文字づつカーニングできることはできます。大きく目立つ文字列には頑張ってトライしても良いと思います。

これはPowerPointでタイトル文字として入力したものです。上段はMeiryo UI Bold、中段と下段はメイリオBold。中段はフォントのダイアログボックスで一文字づつ文字間隔を狭くしたものです。

メイリオのスッキリとした字形はこのようなタイトルにピッタリですが、上段の片仮名は縦長に痩せていて、メイリオ特有の横に流れるようなスマートさがありません。
下段は小さな「ィ」や「ッ」があるとさすがに間延びした印象になります。タイトルとして考えると全体としても、もう少し文字間隔を詰めたいところです。

文字間隔はWordでは「狭く」、PowerPointでは「つめる」となっていますが同じ意味です。Wordでは入力したpt数の2倍になるというバグがありましたが、PowerPointでは正しく反映されます。間隔の調整は0.1pt単位で入力できます。
文字は88ptで「フ」では12pt詰めています。設定した文字の後ろの文字が前に詰まってきます。広くすれば広がります。

字形や隣り合う文字によっても詰める量が変わりますので一文字ごとに見え方を確認しながら調整します。

フォントの大きさを変えても間隔は比例して変化してくれないので、最終的なフォントの大きさを決めてから調整します。文字間隔が%など文字の大きさに対する割合で決められないところが少し残念です。

文字間隔の調整をするときは、字形の端と端の距離ではなく、文字ではない背景、ここでは白地ということになりますが、その面積というか量が均一に見えるように調整するのがコツです。

文章が長くなれば白地を多くし、漢字と仮名の白地の差がはっきりした方が読みやすく、プレゼンテーションのタイトルなどは文字列が一体感を持って目に飛び込むように白地を減らしていきます。

アルファベットの等幅フォント

アルファベットの多くはプロポーショナルフォントですが、中には等幅フォントもあります。文字幅は一定ですが、幅そのものは日本語の半角等幅のように狭くはありません。

これらのフォントの用途は昔の空港にあったデジタル以前のパタパタ式発着案内やタイプライターなど物理的に一定の幅を要求されるもののためにデザインされています。また、デジタルの世界ではプログラムを書くときに使われています。Courierというフォントが有名ですが、他にもConsoleとかTypewriterのような表記が付いています。Monotypeとも言われます。