フォント1・言語とフォント情報

フォント1・言語とフォント情報

フォント、タイプフェイス、グリフ、書体、字体、字形など文字に関する様々な言葉があります。様々な定義があり、人によって使い方も様々、文脈の中で異なる意味で使われることもあります。
私はこの記事の中で「字形」という言葉を使います。文字として判別できる最低限の抽象的な骨格的図形ではなく、太い、細い、筆文字風、縦横線の幅が違うなど様々な要素を加味してデザインされた個々の文字の形という意味で使っています。

WindowsとWordのフォント環境は何から書いて良いか分からないほど様々な要素が交錯しあっていて、まとめるのが難しいです。グラフィックデザインでは文字や文字組が一番大事な要素です。Windowsでのフォント環境の難解さはプロでない方がでデザインをする上で最大の欠点かもしれません。

取り敢えず、インストールされているフォントとWordで表示されるフォントの選択リストから話を始めましょう。

パソコンには最初から多くのフォントが入っています。

Windowsの場合、OSをインストールした時にインストールされるフォントとOfficeをインストールした時にインストールされるフォントがあります。個人でインストールしたフォントがないと仮定するとOfficeと同時にインストールされる日本語フォントは、先頭にHGP、HGS、HGとついているフォントです。Officeバンドルではないパソコンにはインストールされていません。

HGとついているフォントはリコーという会社が開発したフォントです。
また、最近ではOfficeバンドルパソコンであっても、ストアアプリ版のOfficeにはリコーのフォントがインストールされていないものもあるようです。

それ以外のフォントはWindowsと同時にインストールされます。
宛名書きソフトなどでは、ソフトと同時にインストールされるフォントもあります。

フォントの選択リスト

フォントを選択するときにフォントリストの中から選択していきますが、どのような並び順になっていのでしょうか?

上の方から、「テーマのフォント」、「最近使用したフォント」、「すべてのフォント」の順に表示されます。

さらに「すべてのフォント」は日本語、韓国語、繁体字、簡体字(これらはCJKと呼ばれます。)のフォントが混在して表示され、次にその他の言語と記号という順番でフォント名のアルファベット順で表示されます。
言語に関係なく、アルファベット順になるIllustratorなど他のソフトに比べると便利です。

ただし、これはWordだけの並び順です。Excelでは日本語の次に韓国語、繁体字、簡体字が混在し、その次にその他の言語と記号の順に並びます。この方が分かりやすい気がします。
PowerPointでは言語に関係なくアルファベット順に並びます。日本語フォントには先頭にアルファベットがつくものがあり、日本語だけが固まって表示されることはありません。

CJ Kとは

CJKとは言語の中で漢字を利用する地域、中国大陸の簡体字、台湾の繁体字、日本の漢字と仮名、朝鮮半島の漢字とハングルのことです。
朝鮮半島ではハングルが主ですが、漢字も使用しています。文字と言語は同一ではなく、漢字と呼ばれる字形はこの地域で共通に使われ、少しづつ地域特有な形に変化してきました。ハングルは韓国語で、カナは日本語で固有に使われています。

ユニコードでは漢字で共通する部分も多いので、ハングルや仮名を含めてこの地域で使われている文字の文字コードを統合しています。以前、日本ではShift-JISと呼ばれる文字コードを使っていましたが、今はユニコードと呼ばれる文字コードがパソコンのベースになっています。

少し無謀ですが、ここでは繁体字、簡体字、日本語、韓国語と表記することにし、さらに日本語は「日本語」、日本語以外を「CJK」と表記することにします。

CJKのフォントと日本語は先頭文字のアルファベット順に表示されているので、繁体字、簡体字、日本語、韓国語が混じり合っています。

簡単な見分けかたとして、繁体字、簡体字、韓国語のフォントは名前がローマ字になっています。日本語の場合はローマ字混じりでも日本語が使われています。
例外はMeiryo UI、MS UI Gothic、Yu Gothic UIは日本語です。Yu Gothic UIはLightやSemiboldなど太さによって4書体が表示されます。
UIとはユーザーインターフェースの略だと思われます。パソコンのダイアログやメニューに使用する目的でデザインされていて、ひらがなやカタカナが極端に幅狭くデザインされているので使うことをお勧めしません。
UIとついている書体はCJKのフォントにもあるので注意が必要です。

日本語フォントの多くは、日本で使われている文字コードだけの字形を作っています。Windowsにインストールされている韓国語、繁体字、簡体字は異なる地域の文字コードにも字形を持っていものが多くあります。ただ、全ての文字コードに字形を持っているフォントは少なく、字形は割り当ててあるものの他のフォントの字形を取り敢えず使っているだけというフォントもあります。

CJKのフォントを日本語のテキストに指定するとひらがなやカタカナも表示できますが、お勧めしません。

CJKの多くのフォントは対象となる言語以外の文字も収められていますが、すべての文字がデザインされているわけではなく、ひらがな、漢字の一部が他のフォントに置き換わったり、漢字の「はらい」や「はね」、句読点の位置が日本人の感覚に合わなかったりします。

Batangという韓国語のクラウドフォントを指定した例ですが、「底」という漢字も何となく違和感がありますし、このフォントは縦書き用なのか句読点も変な位置にあります。

5行目はハングルと韓国で使われている漢字、6行目は繁体字、7行目は簡体字になっています。

これはGungsuhという韓国語のクラウドフォントです。韓国で使われる漢字部分がハングルの字形とは全くデザインが違います。漢字を使うことを想定していないようです。

日本語はほとんどGungsuhのままで他のフォントに置き換わってはいませんが、「青」という文字と「ー」の文字はMS明朝に置き換わっています。GungsuhとMS明朝の字形デザインはとてもよく似ているので日本の漢字部分にMS明朝の字形を割り当てているのかもしれません。
韓国で使われている漢字の内、「高・巴」を組み合わせた漢字はPMingLiUに置き換わっています。この文字は朝鮮半島では人名に使う漢字のようなので字形を割り当てていないのかもしれません。繁体字はGungsuhになっていますが、簡体字はPMingLiUになっています。

こちらはNoto Sansというフォントです。AdobeとGoogleが開発したフォントで日本語を含むCJKの文字を約65,000字収録してあります。日本語フォントは多くても約15,000字、少ないものだと8,000字程度なので収録されている文字の多さがわかると思います。日本語名を「源ノゴシック」と言います。日本語、韓国語、繁体字、簡体字が混ざっているのですが、他のフォントに置き換わった文字はありません。

アルファベット・その他言語・記号

私たちは何気なく「アルファベット」という言葉を使いますが、アルファベットの字形はキリル文字(ロシア語)、ギリシャ文字を含みます。英語などで使われる文字はラテン文字と言われます。

ラテン文字は英語のほかにフランス語やドイツ語など多くの言語で使用されているように文字と言語は同一のものではありません。CJKのように漢字も同様です。

Windowsでは文字の違いを「デザイン対象」という言葉で表現し、デザイン対象としてラテン文字、ギリシャ文字、タイ文字、タミール文字、繁体字などと表記されています。ただ、韓国語と日本語はそのまま「字」ではなく「語」と表記されています。

CJKとその他の文字は線などで区分けされているわけではありません。目安としては日本語の名前のフォントと先頭が「A」始まるフォントの間だと考えてください。
具体的には游明朝LightとAbadiかAgency FBの間になります。

これから下はアルファベットだけでなく、ヘブライ文字、タイ文字、チベット文字などと記号が混じり合って表示されます。タイ文字やモンゴル文字などアルファベットでない文字もフォント名としてアルファベットで表示されるので注意が必要です。

フォントの情報

フォントは「ローカルディスク(Cドライブ)」>「Windows」>「Fonts」フォルダの中にインストールされています。

「Fonts」フォルダを開くと多くのフォントファイルがアルファベット順に表示されます。薄くグレーアウトしているファイルは「非表示」の扱いになっているフォントですが、多くのアプリケーションで表示されます。Windowsの七不思議の一つです。気にしない方が良いと思います。

ファイルが複数重なったアイコンはフォルダだと考えればいいと思います。ダブルクリックすると複数のファイルが表示されます。

Arialをダブルクリックすると中に9個のファイルが表示されました。
フォントファイルを選択すると下の方にフォントに関する情報が表示されデザイン対象が分かります。またファイルのアイコンの文字によってもCJKのフォントは分かります。タイ文字やヘブライ文字もアルファベットでない文字だということは分かると思います。

フォントファイルをダブルクリックすると字形と太さのサンプルがプレビューされます。これはAlgerianというフォントの例ですが、デザイン対象がラテン文字なので日本語が含まれていないはずなのに字形デザインの異なる日本語が表示されます。日本語が含まれないフォントでは日本語部分はMS UI GothicというMS ゴシック系のフォントに置き換えられます。ヘブライ文字でもタイ文字でも同じです。アルファベットと数字は記号を除く全ての言語にあるのでヘブライ文字やタイ文字のプレビューをしようとしても全く用をなしません。

記号専用のフォントでは日本語部分が四角になり、日本語の字形がないことがはっきりします。

CJKのフォントの場合はもっと複雑で日本語の字形があるところはそのフォントで表示され、ないところは日本語のフォントに置き換わります。Malgun Gothic 細字の例ですが漢字が太く、かなでも「ー」が太くなっているのが分かります。

このプレビューは用をなさないだけではなく、誤解を与えるような仕組みになっています。

Macでのフォント管理

プロのデザイナーの間ではあまり評判が良くないのですが、MacにはFont Bookというフォント管理アプリがついています。このアプリでフォントの使用/不使用の設定、字形の確認、デザイン対象などを調べることができます。

これはBodoni 72というフォントですが、デザイン対象言語でのプレビュー、日本語でのプレビュー、情報という順番に並べてあります。実際には3ページですが、1枚の画像に合成してあります。

日本語部分は文字がありませんので、四角に?マークで表示されています。Windowsの表示と違うところです。

これはNanum Gothicという韓国語のフォントです。日本語部分も文字がありますが、「青」の漢字がありません。また仮名はバランスが悪く、「ー」は明らかに細く、ダッシュの字形そのもののような気がします。右側はNanum Myeongjoというフォントです。同じ韓国語でもハングルだけ字形が作られていて、韓国で使う漢字がないフォントもあります。現代の韓国では漢字を使うことが少ないからでしょう。

それ以外の言語の文字も何が書いてあるのか分かりませんが、それぞれの言語でプレビューされます。
Windowsでも、もう少し親切な仕組みが必要だと思います。

クラウドフォント

Microsoft365(Office365)ではフォント名の右端に雲のマークがついているフォントがあります。これはクラウドフォントと呼ばれるものです。雲のマークをクリックするとダウンロードされ、雲のマークが消えてドキュメントの中で使えるようになります。あたかもダウンロード=インストールのような印象を受けますが、パソコンの中にインストールされるわけではありません。パソコンにインストールせずともネットに接続された環境であればどこでも使えるという仕組みのフォントです。他の人にドキュメントを渡すときでも相手のフォント環境を気にする必要がありません。

クラウドフォントはパソコンのストレージを圧迫せず、iPadなど他のパソコンのフォント環境も気にせず便利なのですが、厄介な問題も含んでいます。

ダウンロードしてもインストールされないのですからフォントフォルダを覗いてもありません。デザイン対象やスタイルなど確認できないのです。

情報を見るためには「フォントの情報をオンラインで確認取得」をクリックしてブラウザで確認するしか方法がありませんが、サイトの反応が悪いのか検索語句の入力が悪いのか、情報が出てこないものもあります。同じフォント名で検索して情報が出てくる場合もあります。このサイトでの検索方法自体、よくわかりません。

Microsoft GothicNeoというフォントを調べるとMicrosoft の文字列が含まれる全てのドキュメントが検索され、620件にもなりました。
このサイトはフォントに関するものだけではなくMicrosoftの製品全般のドキュメントを検索するサイトのようです。

クラウドフォント だけでなく、Windowsにインストールされているフォントの情報も含まれています。

フォントに関してはデザイン対象とサンプルの文字を表示することができます。ただ、日本語化されていないので游ゴシックはYu Goticで游明朝はYu Mincyoでないと検索されません。Yu Goticで検索すると「結果なし」と表示され、「typographyでは検索に合うものが見つかりません。」とあります。

ドキュメントが60件と表示されるのでドキュメントをチェックしてリストを表示すると「Yu Gothic font family – Typography」というタイトルがあります。
その上段には「60 results for “yu gothic” in typography ドキュメント」とあります。最初は「typographyでは検索に合うものが見つかりません。」と叱られ、今度はYu GothicだけでなくFranklin GothicやCentury Gothicまで含まれるという何とも難しいサイト内検索です。

Yu Gothicでは日本語のサンプルが表示されますが、Yu Mincyoではアルファベットのサンプルしか表示されません。左側がYu Gothic、右側がYu Mincyoの字形プレビューです。少々、荒っぽいドキュメントです。

ともかく、CJKのクラウドフォントはインストールされているものよりさらに情報を得にくいので使用しないことをお勧めします。

インストールされていないフォントの扱い

フォント環境が異なるパソコンで作成したドキュメントに使われているフォントがインストールされていない時はどのようになるのでしょうか。

Wordは何の警告も出さずに黙ってフォントを置き換えます。しかも、置き換えられたフォントの文字列を選択するとフォント名として元のフォントのアルファベット名が表示されます。置き換えられたフォントの名前ではありません。フォントの字形と名前が別物なのです。これではフォント名とその字形をよく知る人でなければ置き換えられているのかどうか判断できません。

これはデザイン上、致命的な欠陥です。

Adobe Illustratorなどプロが使うグラフィックソフトは警告を出し、どのように処理をするかを求めてきます。Mac版IllustratorでWindowsにはないクレーというフォントを使ったドキュメントをWindows版Illustratorで開いています。ここでは小塚ゴシックというAdobeのフォントに置き換わっていますが、警告が出てきます。

私が普段使っているMacのPages(Wordのようなソフト)ですら警告を出し、置き換えたことを伝えてくれます。アルファベットや数字、あるいはPフォントと呼ばれるプロポーショナルフォントが使われていると字送りが変わって行数が変わるなど体裁が崩れ、全体のデザインに影響します。

これはMac版Wordでクレーを使ったドキュメントです。クレーというフォントはこのような字形をしています。

Windows版Wordで開くと警告なしで游ゴシックボールドに置き換わっています。警告は出ません。フォントの欄にはKlee Demiboldと表示されています。
クレーというフォントの字形を知らない人は、Klee Demiboldというフォントはこんな字形なんだと思ってしまうでしょう。

ドキュメントをやり取りする相手とフォント環境を揃えるか、PDFにするか、クラウドフォント だけにするか、フォントを埋め込むかしなければなりません。相手がタブレット端末で見る場合はフォント環境を揃えるのはかなり難しいと思われます。
フォントの埋め込みはTrueTypeに限られます。Mac版Wordでは埋め込むことができません。埋め込み機能があったとしてもMacの日本語フォントはOpenTypeが多いので埋め込めません。

ちょっと不可思議なこと

Macでは、ここ数年の間にフォント環境が劇的に変化しました。それはフォントの保存場所。以前はシステム/ライブラリ/フォント、ライブラリ/フォント、ユーザー/ライブラリ/フォントの3ヶ所のどこかに保存されていたのですが、OSの最新バージョンでは保存場所がわからないフォントがあります。

MacではWindowsでもインストールされている字游工房がデザインした游ゴシック体と游明朝体がインストールされています。ただ、文字の太さのバリエーションが異なっています。

游ゴシック体では
Macがミディアム、ボールドの2書体、
Windowsがライト、標準(レギュラー)、ミディアム、ボールドの4書体、

游明朝体は
Macがミディアム、デミボールド、ボールドの3書体、
Windowsがライト、標準(レギュラー)、デミボールドの3書体、

となっています。
太さの種類が幾分異なっています。

Macのアプリ:Pages
Mac版Word

Mac版Wordで編集作業をすると游ゴシックはWindowsと同じ
ライト、レギュラー、ミディアム、ボールドがリストに2書体多く表示されます。
游明朝はライト、標準(レギュラー)、デミボールドになり、ミディアムとボールドは表示されなくなります。

Office系以外のMacのソフトではこうなりません。そして書体の名前が微妙に異なります。Windowsでは游ゴシック、游明朝、Mac版Wordでも同様ですが、Macの他のソフトでは游ゴシック体、游明朝体という表記です。Macにインストールされている日本語フォントの多くはFont Bookに表示されるものの、その保存場所は明示されません。どこか秘密の場所にインストールされるようです。

「体」が付くかどうかの違いですが、「体」が付くのはOpenType、付かないのはTrueTypeというフォント形式の違いです。字形に変わりはありません。Macの日本語はOpenTypeが多く、Windowsの日本語はTrueTypeの方が多いのです。Mac版Wordでは「体」が付かない名称がリスト表示されるのでどこかにこれらのフォントがインストールされているはずです。探してみたらWordのアプリケーション内にありました。パッケージの内容を表示させてContents/Resources/DFontsを開くとその中に入っています。Font Bookでは表示されない仕組みです。
游ゴシックや游明朝の他にメイリオやMSゴシック、HG系の一部のフォントもインストールされています。日本語だけでなく他言語のフォントも含まれています。

Mac版Wordで游明朝のミディアムとボールドが使えなくなるのは表現力が限られてくるので困ります。
ライセンスの問題なのでしょうか?